時間当たり生産性向上に限界

政府は「働き方改革」を推進している。目的はブラック企業の排除や過労死・自殺の防止で、労働時間を規制し、守らなければ罰則規定を設ける厳しいものになる。
しかし、この「働き方改革」は強すぎると企業の競争力の低下を招き、弱すぎると労働者の労働環境を悪化させるもので、真にトレードオフの関係にある。
但しトレードオフの関係にあるのは大・中企業だけで、地方に多い従業員30人以下の中小零細企業ではすべての面でマイナスの方向に動き、収益減に繋がり
中小企業の存続に大きく影響することになりそうだ。

労働分配率の上昇で廃業へ

「働き方改革」は9項目あるが、中でも▽賃上げと労働生産性の向上▽長時間労働の是正—この辺りがこれまでの労働慣習を大きく変え、究極は中小零細企業の
収益圧迫に繋がる可能性が大である。
もともと中小零細企業(製造業、小売、サービス業など)は、労働時間に比例して収益増になるビジネスモデルが大部分である。それを残業時間の上限を設けて、
しかも賃上げを要求するわけだから労働分配率は急上昇し、収益を大きく圧迫することになる。それでなくても下請けや価格競争で収益が薄くなっているのに
労働時間を削減し、賃上げせよ—(でなければ、極論すれば罰則をあたえるゾ)というわけだから、中小零細企業はますます萎縮し、経済成長などと言う暇もなく
廃業・倒産に追い込まれてしまう。これが地方企業の実態ではあるまいか。
この改革に、さらに人手不足が追い打ちをかける。人手不足が企業をブラック化し、「働き方改革」で企業消滅というシナリオだ。
このシナリオは、いささか極論すぎるかも知れないが、地方企業はこれまでブラック的企業(グレーゾーン)で何とか生き延びてきた。別の見方をすれば中小零細企業では
過労死などというものはなく、むしろ過労死や残業代の未払いなど労基法上の問題が大企業に集中しているところをみると、大企業こそブラック企業予備軍だと言っても良いだろう。

新たな雇用問題が発生

このトレードオフに「働き方改革」はどう解決策を言っているのだろうか。
大方の答は「時間当たりの生産性の向上」だ。生産性の向上などと言うと、すぐにITが頭に浮かぶ。ITが全てを解決するかのような「IT神話」が再び席巻しようとしている。
しかし、人手不足に加えしかも人材難に悩む中小零細企業では、まず収益を削ってでも労働分配率を上げて賃金体系を良くしなければ人材が集まらない。人件費高騰になれば、
ITなど生産性向上のための投資余力がなくなる。全くの悪循環に陥ってしまうことになる。
一方で、「働き方改革に十分に対応できない中小零細企業が廃業に追い込まれれば、新たな雇用問題を生むかも知れない。中小企業の従業員は全体の70%を占め、日本の雇用を支えているのだから。
同時に、ホワイト企業とブラック企業の格差が明確になり、ホワイト企業に集中する雇用の偏りが発生するだろう。企業間格差の発生だ。
低経済成長に加え、グローバル化の波、事業承継問題と、次々と難題を抱え込む中小企業にとって、今度の「働き方改革」は中小零細企業に対し、大きな構造的変化をもたらすだろう。