老舗企業が日本経済を再生する

今や、起業・創業は国を上げての重要政策になっている。
それは日本の産業を支える中小企業数が99.7%を占めているものの、休廃業、解散で年々減少傾向にあり、少子高齢化も相まってこのままでは日本の産業構造が根底から崩れる危険が増大しているからである。
この危機を回避するために起業・創業ブームを巻き起こし、様々な公的支援を行って起業・創業者の数を増やさなければならない、というわけだ。

日本のGDPを支える 中小企業

99.7%を占める中小企業数のうち、従業員数は約70%(いずれも2014年統計)、付加価値額(2011年)は約55%で、日本のGDPの 約半分を中小企業が稼ぎ出していることになる。中小企業の日本経済力の貢献度は大きいのである。
その中小企業が後継者問題からグローバル化などの環境の激変から厳しい状況に直面していることは、地方経済をベースに概観すればすぐに理解できるはずだ。
一方で何故国は起業、創業者育成力を入れているのか。それは企業が減少すれば法人県市民税、固定資産税、住民税、所得税、巡りめぐって消費税の減収などに繋がり、国家、地方財政が行き詰まるからである。
だから国はいわば”煽り“たて、起業・創業ブームを起こさなければならない。

「プチ起業」華ざかり

しかし、問題はそう簡単にはいかない。卑近な例でみると、国策の起業・創業を金融面から支える日本政策金庫公庫鳥取県版の状況をみると、融資企業数は2011年以降ブームに乗って増え続け15年度には112件(前年度は110件)まで増加する反面、融資額は15年度で7億3400万円となり、前年比29%減となった。
件数は伸びたものの、融資額が減少したことは、300万円以下の小口融資が増加したことを表している。業種別にみると、サービス業、建設業、飲食店・宿泊業であり、特にサービス業、飲食業などは”プチ創業“に近く家族的な経営で雇用創出は期待しにくい業種である。
一般的に「女性活躍社会」と国は煽り立て女性の起業・創業を指導するが、女性の創業・起業は”趣 味“の延長がほとんどでダイナミズムに欠け、雇用にしても、規模的にもそう大きな期待はできないのではないか。ましてやアメリカのシリコンバレーのようなベンチャーを期待しているわけでもあるまい。

老舗企業こそ求世主

起業・創業が成功し、多くの雇用を生み税金を払うまでに成長するには、当然優れたビジネスモデルでなければならないし、信用がゼロからスタートするわけだから、一人前になるのに長期間かかる。
しかし、創業30年、40年企業で成長曲線が成熟期から衰退期に入っている場合、経営革新制度などとの組み合わせで再び成長期に戻すことができはしないか。
老舗企業はそれなりに経営ノウハウや技術をもち、顧客をもち、雇用があり、ブランド力もあり売り上げもある。そうした力を総合力として発揮できれば、先行き不透明な起業・創業、とりわけプチ起業などとは大きく違ってそれ以上に付加価値を生み出すことができる。
今やるべきことは、創業・起業のセミナーだけではなく、衰退期に入った中小企業をいかに再生するか、これまでの経営資源を生かして、どう経営戦略を立て直していくか、―そうしたセミナーが業種ごとにでも開講し、成功事例を交えてヒントが示されなければならない。
起業・創業といった新しいものに飛びつくだけではなく、既存企業の再生こそが日本経済の底力を押し上げることになる。

評 野口荘太郎