松江市が平成17年以来、推進して来た「RubyCityMATSUEプロジェクト」は、松江市の産業振興策の一環でその発明者が「まつもとゆきひろ」氏(米子市出身)であることはよく周知されていると思う。
Rubyは日本で開発されたプログラミング言語で、初めて国際電気標準会議で国際規格に認証されている。

Rubyを発明
松江市は平成17年の国勢調査で旧松江市の人口が初めて減少したことから人口の流出を防ぎ、人口増を図るための産業振興の取り組みと同時に雇用拡大の施策が急務となった。しかし、小規模都市・松江市では大規模な補助金による企業誘致は財政力からみて無理な課題だった。
そんな中、松江市内での知財資源を探索したところ、松江市在住でRubyの発明者の「まつもとゆきひろ」氏を慕って、優秀なITエンジニアが県外から集まっていることが分かった。そこで「まつもと」氏に着目し、「Ruby」をオンリーワンの地域ブランドと位置づけ、松江市に「知財(人財)企業」を呼び込むプロジェクトを発足させた。
松江市はこのプロジェクトに様々な支援を展開している。いわば「Ruby」発展のインフラ整備である。例えば平成18年にJR松江駅前に交流の場として「松江オープンソースラボ」を開設。その後、このラボを拠点として「しまねOSS協議会」やエンジニアコミュニティが次々と誕生した。
平成19年には島根大学、平成20年から松江高専で県内外から一流のRubyエンジニアを招へいした「Rubyプログラミング講座」を開催。さらに奥深いのは平成20年からIT分野に関心のある中学生を発掘する「中学生Ruby」教室を地元Rubyエンジニアと協力し開始したことだ。平成25年からは継続的に学べる「Ruby・Jr」に発展。平成28年からは全ての市立中学校でRubyの授業を実施するまでに発展し、小学校でもRubyの実証実験を始めた。
それだけではない。県外からのIT企業の誘致にも力を入れている。昨年はインド・ケララ州の大学、企業と連携を開始しケララ州より11名がIT企業へインターンシップを行うなどして、国際的な人材確保と企業連携に務めている。

シリコンバレー「松江市」も
松江市の同プロジェクトの13年目の成果は目を見張るものがある。まずIT従事者数は平成18年に582人だったのが平成28年には1033人に。IT企業売上高は68億円が2・8倍の189億円。Rubyエンジニア数は62人から4・5倍の277人。そしてIT企業の誘致数は40社に及んでいる。「MATSUEシリコンバレー」も夢ではなくなった。

米子にも巨大プロジェクト「バイオフロンティア」
米子市はどうか。米子市にも世界に誇れる一大プロジェクトがある。それは「バイオフロンティア事業」の中核施設、「染色体工学研究センター」が産官学連携で14億円余りかけ鳥取大学医学部キャンバスに完成したことだ。この時の所長が押村光雄氏(当時、鳥大医学部教授)で押村氏はどんな大きさの染色体遺伝子でも搭載できる人工染色体技術を開発した。それが創薬にも役立つ可能性が大きくなり、創薬ベンチャー企業から田辺三菱製薬、第一三共などの大手までが5社程度誘致され、世界的な広がりをみせている。
押村特任教授が社長を務める(株)Trans Chromosomics(米子市西町)は2020年に、新規株式公開(IPOー)を目指している。押村氏自身、鳥大で40年の歳月をかけた研究の成果が今、ようやく実ろうとしている。
こうしてみると、産業振興の原点は、一人の「知財」によってその基礎が築かれ、その周辺にベンチャーが集まり集合体を形成。それに産官学の支援が加わって一大集積産業に発展して行く経緯がよくわかる。
大金の補助金を使っての企業誘致もよいが、もっと地元に目を落とし「知財」を見出す目利きも重要ではないか。
今はUターン流行である。この中に大都市で貴重な経験をしてきた若者も多いと思う。人の評価は意外と内部からではわからないもので、我々は外部からの評価に依存しやすいが、地域内で何かに優れた「知財」を探索することが重要と思う。