『NAFTA』崩壊の危機

2017年3月の、本紙「政経時評」で論じたトランプ米国大統領の標榜する「パクスアメリカーナ」が、来年の中間選挙を意識してか、ますます過激になって来た。その鉾先の一つがNAFTAとの貿易不均衡の是正だが、しかし米国がごり押しすればNAFTAは消滅するかも知れない。そうなれば2008年のリーマンショック悪夢の再来という事態も避けられないではないか。それはわずか3カ国で世界のGDPの30%超を占め、EUを抜いて世界一位の経済圏域を形成しているからである。

そして日本との関連では自動車関連産業がメキシコを通じて安く米国に輸出されており、日本経済のけん引産業の自動車産業が大打撃を被ることになるのは必至の様相だからだ。  NAFTA(北米自由貿易協定)は米国、カナダ、メキシコの3カ国で締結され、1994年1月に発効した。米国ではビル・クリントンの時だ。

このNAFTAの実施に当たり当初、最も懸念されたのはメキシコの農業が大量生産する米国農産物に席巻され壊滅状態になるのではないか、ということだった。しかしスタートから20年経過し逆にメキシコ農産物が輸出超過になっている。

今、カナダから米国への自動車輸出がヤリ玉に上がっているが、トランプは有税にしようと目論んでいる。カナダの輸出の70%は米国向けだから、米国の輸入超過による貿易赤字はメキシコの対米輸出の黒字と併せ深刻な問題となっている。トランプの怒りももっともらしく伝わる。

NAFTAの米国の貿易赤字は、当初の思惑と違い米国が経済大国と位置づけられれば、カナダ、メキシコとは大きな経済格差があり安価なものを米国に輸出する、ということで立場が逆転したのだろう。

この論考で始めに日本の自動車産業界が大きな打撃を受ける、と書いたが、実際、日本からメキシコに輸出している自動車産業関連会社は100社に達しているとみられる。

メキシコには自動車産業発展のために「マキラドーラ」(輸入した原材料を加工して輸出する)方式が成功し、米国の大量失業の原因とも指摘されている。

日本のメキシコ進出の要因は、まず労働コストが安いこと、米国に近いので輸送コストもそうかからない、そしてNAFTAの恩恵である無関税で安価に米国に輸出できる。こうしたメリットを考慮し日本企業はメキシコに工場進出している。特に労働コストは米国の6分の1の安さと言われ、メキシコ産自動車の80%は米国向けと言われている。

結果、安い日本車が米国市場で出回ることになり、日本の自動車産業界への風当たりも強くなるという訳だ。

従ってもし米国がNAF TAから離脱となれば自動車産業界は大不況に陥ることになりはしないか。それは08年のリーマンショックに匹敵するほどの大ショックになるというのである。

しかし一方で、GDP世界第2位の中国、EU、 韓国、東南アジアなどの国々と国境を越えた貿易互恵関係があるなかで、米国が一人頑張っても、 「アメリカンファースト」を叫んでみても、現存の世界経済モデルを米国流に変えてみても、結論は一周してみれば自らの首を締めることになりかねない。

日本もこうした状況を考えると、かつての共産圏とも連携し、「政経分離」で世界の貿易を構築しなければ、と思う。

トランプ大統領は安倍首相との会談で開口一番に「リメンバーパールハーバー」と〝脅し〟とも取られるあいさつをしたと伝えられるが、軍事同盟が裏付けとなっている今日、用意周到な外交戦略が求められる。